現在休職中の夫私が家族から影響を受けたエピソードを綴っています。
長男は趣味で作曲をしているのですが、パソコンソフトで作成しています。毎晩、就寝前に1〜2時間ほどパソコンに向かっています。
ゲームやアニメを見るならまだしも、趣味とはいえ毎晩、パソコンに向かうことはしんどくないのでしょうか。その辺を長男に聞いてみました。
暇さえあればパソコンいじくる
長男は趣味で作曲をしています。親の私は詳しくわかりませんが、パソコンに電子ピアノを接続し作曲ソフトや何やら音をミックスするソフトを使いながら作業しています。勉強机の上にモニター、キーボード、電子ピアノなどを置いているため、当然勉強するスペースはなく、また勉強する気もないようです。
我が家は就寝時間が早く夜9時30分には家の電気が消えます。その後、長男はヘッドホンを装着し作業が始まるようです。電子ピアノの鍵盤を叩く音と、マウスのクリック、キーボードを叩く音が続きます。
作曲を始めたのはおそらく小学高学年か中学に入ってからからかと思うのですが、少しずつYouTubeにアップしたりとコツコツ作業を進めているようです。

楽しいから続けられる
息子曰く、「特にしんどいことはない。キーボードに向かうことに抵抗はないよ。」とのことでした。
私も映画やゲームなら抵抗なくできるのですが、半分趣味である知識を補う勉強などは趣味とはいえちょっと気合を入れないとなかなか行動に移せない状況です。知識を補う勉強が仕事につながることもあり、気持ちとしては仕事の延長的な部分もあり収入につながる可能性も全く意識していないといえば嘘になります。
趣味とはいえ、勉強しながら知識をつけながら尚且つ同時並行的に実践していくことは若干ストレスが強いと思うのですが、そのモチベーションはどうも先ほどの収入(報酬)との関係があるようです。
収入(報酬)とやる気
やる気、一般的にモチベーションと言われるこの気持ちは少し表現を変えると「内発的動機」と言われています。この内発的動機を誘発するもの、それは好奇心にあります。好奇心は「知りたい」、「体験したい」などの欲求にあります。そしてそのような気持ちに関わる脳領域に腹側線条体と腹側淡蒼球がありその活動に現れるようです。
とあるゲーム課題で低難度、中難度、高難度と順に実施した時、高難易度に挑むにつれ腹側線条体と腹側淡蒼球の活動が高まることがわかりました。そして高難易度に挑む時の気持ちも「楽しい」と感じるようです。
そしてこの研究の面白いところはあるグループに報酬を設定したようです。そして報酬を設定されたグループでは高難易度課題で楽しさが減少し、腹側線条体と腹側淡蒼球の活動も低下したようです。
つまり報酬がやる気を減少させた結果になりました。
さて、この腹側淡蒼球はチャレンジ精神とも呼ぶべき内発的動機づけに関わっているようです。金銭的な外的報酬がなく、自ら主体的にその挑戦に取り組んでいる場合にチャレンジ精神が発動するようです。
参)Neural basis of the undermining effect of monetary reward on intrinsic motivation. Kou Murayama at al., in The Proceedings of the National Academy of Sciences, Nov 15 2010
目標の捉え方

成功すると良いことがある:接近目標・・・ポジティブ?
失敗すると良くないことがある:回避目標・・・ネガティブ?
何かに取り組もうとする時、その結果に対してどのような気持ちで臨むかによっても内発的動機に影響があるようです。ただ近接目標をポジティブ、回避目標をネガティブと表現して良いかは私の印象なので正解かどうかはわかりませんが。
さて同じ課題を「成功に報酬」(近接目標)か「失敗に罰」(回避目標)かのルールで実施してもらうと全く正反対の感情が現れたようです。近接目標では強くポジティブな感情を、回避目標では強い不安や失望を感じたという意見が多かったのです。この研究では線条体に注目していましたが、線条体の活動に大きく影響しているのがドーパミンです。そして近接目標と回避目標では線条体の活動パターンが異なっており、その線条体へ中脳から供給されるドーパミンの放出パターンが関係してそうなことまでわかっているようです。
参)Motivated for near impossibility: How task type and reward modulate task enjoyment and the striatal activation for extremely difficult task. Michiko Sakaki et al., in Cognitive, affective & behavioral neuroscience, Nov 30 2022.
参)Motivated with joy or anxiety: Does approach- avoidance goal framing elicit differential reward-network activation in the brain? Michiko Sakaki et al., in Cognitive, affective & behavioral neuroscience, Jan 30 2024.
参)Hemispheric Asymmetries in Striatal Reward Responses Relate to Approach- Avoidance Learning and Encoding of Positive-Negative Prediction Errors in Dopaminergic Midbrain Regions. Kristoffer Carl Aberg et al., in The Journal of neuroscience, Oct 28 2015.
報酬とは

金銭などの外的報酬による影響が徐々に把握できてきました。では発達過程で私たち人間が報酬と感じているのはどのようなものでしょうか。赤ちゃんの動きを見ていると、手を伸ばしたり舐め回したり、周囲の状況を把握しようといろいろな行動をします。そして寝返りやずり這い、はいはいへと移動要素が加わり周囲の環境情報を得ようと積極的に動きます。環境の情報を把握することで何を得ることができるのか、それは自分の状況を把握できることになり、自分の状況が把握できることは自己形成に繋がりそれは生存に大きく影響します。
つまり脳が新しい情報、運動、体性感覚や視覚情報などからの様々な情報自体が自己形成、自分の成長に役に立つ情報だとすれば、情報自体が報酬になると判断できます。そしてそのような情報は金銭的な外発的動機とは異なり、自らのやる気や好奇心から生まれる内発的動機になります。それは創造性などの抽象的なものにもつながると思われます。
学習につながる要素

脳が新しい情報を得ようとする場合、時には予測とは異なる情報があるかもしれません。脳はそのような予測とは異なる不確実性にも対応できるように柔軟に学習しようとする、という考え方もあるようです。そしてその不確実性から得られる情報を重視して、自分が今までの経験から思い描いてるモデルとの差を最小になるように対応するそうです。
不確実性の重視は学習においても大切な役割を果たしていると思います。自分のモデルとの差を最小にしようとすることで、自分のわからないことを探索しようとすることにつながります。また自分はどこまで学べているのかどうなのか、学習進捗を把握することも可能になります。
このようにして、内発的動機の好奇心が持続的な学習につながっていき、逆に外発的動機づけがその好奇心の働きを抑えてしまうことがわかってきました。
長男はなぜパソコンに向かえるのか?
小さい時から趣味程度にピアノを習い、音楽理論にも興味を持ち、そしてそれをどのように表現していくか、それが長男の好奇心であり、外発的動機によらないからこそ持続できる、大きな趣味につかがっているとわかりました。
子どもに勉強なり習い事なりでやる気になるようにお小遣いや欲しいもので釣る時もありますが、短期的には効果はあるかもしれませんが、長期的な効果は望めない理由がここにあると思います。
課題を楽しく感じる時は、低難易度から始まりクリアしながら高難易度にチャレンジしていく、この段階が楽しく感じる。そしてこの楽しさから上達につながる学習の成長曲線は、最近接領域での実践が最も効率的かつモチベーションが維持できると言われています。

長男の作曲も徐々に難しい理論を応用しながら作っているようで、素人の私にはわかりませんが、試行錯誤しながら成長しているんだなーと気付かされました。
私も負けてられません。自分の成長につながるような好奇心、やる気を持ちたいと思っています。