「失敗は成功のもと(母)」である、とよく言われていますが、どういうことなのでしょうか。
失敗をすると失敗の原因を考察し次に活かすことからこのような言葉が存在すると思うのですが、私のようにうまく環境に適応できない人間は失敗の連続で、自分でも本当に学習しているのか、と呆れるほどです。
今回、前回の記事で妻が長女に放った、失敗は本当に成功のもとなのかどうか、少し調べてみました。
確かに失敗には良い要素があるが、どのように失敗したかが大切
自己決定意思がプラス思考の原動力!?
私の経験でも、よく考えた上で、自分から進んでやったこと、自分で選んで買ったもの、自分からこの勉強を始めようと思ったこと、は後から失敗したと思っても後悔しなかった記憶があります。そんな自分で決定した時の失敗に関する論文がありました。
ゲーム課題の条件を自分で選択できた組(自己選択条件)と選択できなかった組(強制選択条件)では、自己選択条件の方が、①課題に取り組む時の気分がポジティブに感じられ、②成績も良好だった、とのことでした。
またその時の脳活動を確認すると、悪いことがあると活動が低下する前頭前野腹内側部の活動が、自己選択条件組でのみ、失敗に対して活動が低下しなかったとのことでした。選択権なく強制的に条件を与えられた場合は失敗に伴って前頭前野腹内側部の活動が低下したとのことです。これは失敗をただ悪いこととして捉えていると解釈されていました。
同じように悪いことがあると活動が低下することが知られている腹側線条体では、自己選択条件も強制選択条件も失敗に対して活動が低下したそうです。
以上のことから自己で決定した結果、たとえそれが失敗に終わっても前頭前野腹内側部がそれを「成功のもと」とポジティブに捉え、高い学習効果を維持するとまとめていました。
Kou Murayama, Kenji Matsumoto, et al: How Self-Determined Choice Facilitates Performance: A Key Role of the Ventromedial Prefrontal Cortex. Cerebral Cortex, Volume 25, Issue 5, May 2015, Pages 1241–1251
下記にリンクにわかりやすい図が掲載されています。
https://www.tamagawa.jp/research/brain/news/detail_6476.html
同じ失敗でも熟考が鍵!?
私たちが常に変化する環境にうまく適応していくためには、柔軟な判断や意思決定を行うことが必須です。そのためには、1)決定の適切さ、2)決定の迅速さ、の少なくとも二つの要素が重要ですが、素早い判断が正しい結果を生むとも限らず、この2つを両立することが重要と述べその関係を調べてみた研究がありました。
実験にはマウスを用い、条件に従って2つある穴のどちらかに鼻を突っ込み、正解なら餌が報酬として与えられます(実験1−2日は練習、3日目に試験)。
すると、どちらに鼻を突っ込むべきか(マウスなので実際の気持ちは分かりませんが)熟考し、そして失敗した回数が多いマウスほど、その後のテストは成績が良かったとのことでした。そして同じ回数間違えても熟考時間が長い方がその後の学習成績が良かったとのことでした(早とちりはだめ)。しかも熟考して正解するよりも熟考して間違えた方がテストの成績が良かったとのことでした。
熟考し失敗した方が「なぜできなかったのか、どのプロセスが悪かったのか」と反省し再考することで学習が進んだと考えられます。
Yosuke Yawata, Kenichi Makino, Yuji Ikegaya. Answering hastily retards learning. PLOS ONE. April 25, 2018
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/z0508_00063.html
失敗した時の分岐点に別な選択肢があることに気づくかどうか、とういう要素も大切だと述べられています。そしてそのような選択肢に気づく学習には、先ほどの早とちりではないですが、楽に正解がわかってしまう習慣もあまりよろしくないようです。「望ましい困難」により考える癖がつき、失敗を許容できる環境を作り成長を促すことが大切だと結論されていました。
社会人新人時代に先輩から「自分の時は失敗を繰り返しこれだけ時間がかかったから、後輩にはこんなことに時間を費やさず他のことに時間を割いてほしい」と、言われた記憶があります。しかも1人ではなくさまざまな先輩からそのような気持ちを伝えられましたが、社会人新人の初期だからこそ熟考した失敗を経験することが大切だと考えさせられました。
失敗するタイミングも大切!?
失敗がさらなる学習効果を生み出すことは理解できてきました。しかし失敗するタイミングはどのように影響するのでしょうか。同様にマウスの研究から迷路を使った実験が報告されています。
スタートからゴールに到達する経路が7通りある迷路で、マウスが最短ルートを学習するのに何日かかるかを実験しました。学習完了までの期間は3〜18日と個体差があるのですが、学習初期に頻回に探索行動をした個体は、迷路途中に壁が追加され迂回ルートを探さなければいけない新規条件下でも最短ルートを見つけやすくなっていたようです。先ほどもあったように早とちりで頻回に探索している個体は成績への影響は少なかったようです。そして熟考に関して、迷路で行き止まりに遭遇した際、立ち止まって考えている試行錯誤行動(vicarious trial-and error (VTE) behavior)が学習初期段階で見られた個体ほど、さまざまに変化する迷路でも最短ルートを見つけやすくミスが少なくなったようです。
このVTEの時間で今いる状況を把握し未来への予測をしていると考察されています。そして学習初期段階でこのように試行錯誤していることが大切なようです。
Hideyoshi Igata, Takuya Sasaki, Yuji Ikegaya. Early Failures Benefit Subsequent Task Performance. Scientific Report volume 6, Article number: 21293 (2016)
https://www.nature.com/articles/srep21293
長女の絵画教室継続は時間配分的にも効果的!?
妻の「失敗してもええやんか!」という一言から失敗に関することを自分なりに少し調べてみました。
今の教室に至るまでに他の教室も数ヶ所経験し、どのような環境下でどのようなジャンルなら子供たちが継続できるか、という親目線での試行錯誤と、実際に先生から手解きを受けうまく描けずに悩みながら課題を一つずつクリアしていった子供の試行錯誤から、今の状況に至ったと思います。
教室時間も1回で3時間という長時間ですが、今まで経験した他の教室のように1時間で満足いく結果まで至らずに次回を迎えるよりも、熟考する時間が持てて逆に長時間が良かったのではないか、と振り返っています。
ただ今後継続していくかどうか、娘の選択は「辞めたい・・・」方に傾いていたようにも感じましたが、これも試行錯誤の継続という判断でもうひと頑張り試行錯誤してみて、娘が絵を描くという行為にどのような結果を下すのか楽しみに待ちたいと思います。
そして失敗の経験をもとに成功した時はまた脳活動の別な要因が大きく作用すると思います。この要因も調べてみたいと思います。